水俣学プロジェクト3

2018年度

第3プロジェクト
戦略的研究基盤形成支援事業のうち第三班の研究事業計画「水俣学アーカイブスを通した知の集積と国際的情報発信拠点の形成」については、過年度の成果を踏まえて、研究事業を継続した。具体的には、下記の通り事業を実施した。
1. 水俣学研究センター所蔵資料データベース
 https://gkbn.kumagaku.ac.jp/minamata/database/
【新日窒労組旧蔵資料】
水俣病の原因企業であるチッソ株式会社の労働組合である新日本窒素労働組合は、会社と対立する形で水俣病患者の支援運動に乗り出した日本の労働運動史上に特筆されるべき活動を行った組合の資料は、文献資料、現物資料、写真資料目録で構成され2009年から公開してきた。資料目録の細目録、目次番号の入力および、写真目録上に写真画像を追加する作業を継続して行った。新日窒労組旧蔵資料の写真目録化は、水俣学現地研究センターにおいて、元組合員に依頼して撮影日時、場所、被写体等の情報等を「写真目録カード」に記載し、2009年から継続して進めてきた。6万点以上におよぶ写真資料の同定作業は、写真資料に付加価値をつけ簡易検索を容易にするものであり、写真目録カード化は終了した。写真目録カードを目録とする作業も継続して行い、当センターHPで順次更新している。今年度は、細目録700点、写真目録4000点、写真画像3815点を更新した。
本資料は、1946年に組合が結成後収集した資料であり、温度湿度管理されず保管されていた資料であるため資料そのものの酸性化及び破損被害が大きい。そのため、2017年度から脱酸性化・修復作業をプリザベーション・テクノロジーズ・ジャパンに業務依頼し、段階的に資料保存プロジェクトを開始している。今年度は、資料番号80〜128までの49冊の脱酸性化・修復作業を終えた。
【水俣病研究会蒐集資料】
水俣病研究会蒐集資料は、チッソに対する訴訟で原告・弁護団を支援する目的で結成され、訴えの論拠と裏付けを提示するために一次資料の蒐集を行った研究会の資料である。資料は本学7号館に1968年以降のもの、熊本大学学術資料調査研究推進室(水俣病部門)に68年以前の資料が保管されている。2016年3月に熊本大学学術資料調査研究推進委員と協議し、研究者の資料アクセスが容易になること、災害危機管理が必要であるとの合意がなされ、2016年3月から熊本大学から68年以前の資料を借用し複写を行っている。2016年の熊本地震時に散乱した同資料を再整理し資料番号を付与する作業を継続して行ってきた。この作業は、『水俣病事件資料集』の続刊刊行に向けた取り組みとしても位置付いている。
【松本勉旧蔵資料】
松本勉旧蔵資料は、元水俣市職員で水俣病市民会議事務局長をつとめた方の資料群である。2016年に公開した文献資料1185点のうちメタデータ作成を173件行い更新した。文献資料は資料画像を一部公開してきたが本年度は102件の画像を公開した。資料画像でプライバシーに関わる部分には、研究上の観点から判断しマスキング基準に則りマスキングをかけている。松本氏が患者聞き取りや座談会などの音声をカセットテープで保存した音声目録は、データ変換したものを目録上で視聴できるように本年度から15件を公開した。
【水俣教組旧蔵資料】
水俣教組旧蔵資料は、水俣市教職員組合が収集した資料群である。組合事務所のあった建物(旧水俣教育会館)が解体されることを受け本センターに寄贈された。本年度は、文献資料1777件の目録化作業を終え、来年度公開に向け準備中である。
HP上のデータベースページ閲覧件数は、126353件であった。資料閲覧件数は、水俣学研究センター(熊本市)2件、水俣学現地研究センター(水俣市)29件であった。
2. 水俣学アーカイブ
  https://gkbn.kumagaku.ac.jp/minamata/marchives/
水俣学アーカイブスは、資料と映像をリンクしたアーカイブで、水俣学研究・資料文献データベースおよび映像資料を通して、水俣学の取り組みの一端が研究者以外へも理解が容易になるよう、記録・記憶の集積を視覚的に公開したものである。本年度は、水俣市茂道の漁師の漁業状況をビデオで撮影し、編集作業を行い、水俣学講義に当該の漁師を招聘し映像と共に講演していただいた。その内容を再度編集し、アーカイブの「患者証言」で公開できるよう準備を進めている。
3. チッソ労働運動史研究会
 学外の研究員を加えて、元従業員を招聘し、定期的に研究会を水俣現地センターおよび本学で開催した。本年度は、『チッソ労使の労働運動・経営・民衆・社会史』の刊行にむけた研究会を開催した。研究員の分担は、通史を富田(佐賀大学)、労使関係・労働運動史を花田・富田・石井(大分大学)、経営史を磯谷(九州大学)、社会運動史を鈴木(法政大学)、民衆史・生活史を福原(大阪市立大学)、組合の健康調査が井上であり、研究会においてそれぞれが研究の進捗状況を報告し討論した。本年度中の脱稿、次年度の刊行という日程で作業を進めているところである。
4. 所蔵資料・書籍類
 本学および現地センターの蔵書に関しては、蔵書の活用(閲覧、研究員のみへの貸し出し)ができる体制が整っている。
また、水俣学戦略的研究基盤形成支援事業の書籍予算に加えて、タイの公害研究科研(研究代表:宮北、基盤研究(B))、胎児性水俣病の福祉科研(研究代表:田尻雅美、基盤研究(C))、漁業と水俣病研究科研(研究代表:井上、基盤(C))より、水俣学研究用図書の寄贈も受けており、本年度登録された蔵書は119冊(寄贈図書55冊含む)になった。蔵書目録は研究センターの蔵書管理用に作成されており公開していないが、貴重図書も多いことから公開を検討している。
なお、研究・調査の進展に伴い、種々の行政関係資料、訴訟関係資料、海外調査関係資料など多くの資料類を受け入れている。これらは、調査研究過程で得られた資料であることから、従前より複写製本するにとどまり、登録作業は行なっていなかった。本年度は、こうした調査資料等の収集・保存、整理に関する検討会を行い、来年度より書籍として登録番号を付与し、検索が容易になる研究環境を整えていくこととした。また、水俣学研究センター調査などで撮りためてきた映像はDVDで保存してきたが登録番号を付与していなかったため本年度は整理基準の見直しを行う検討会を行った。寄贈資料に関しても受け入れている。
5. 寄贈資料
今年度、受け入れた資料は以下の通りである。
寄贈日:2018年 5月17日 寄贈者:田辺 氏 資料内容:新日窒組合員収集資料 27点
寄贈日:2018年 5月17日 寄贈者:山下 氏 資料内容:映写機 1点
寄贈日:2018年 5月17日 寄贈者:高峰 氏 資料内容:伊藤蓮雄フィルム3点(フイルムを業務依頼しデータ変換を行いDVD保存)
寄贈日:2018年 5月17日 寄贈者:高峰 氏 資料内容:水俣病刑事事件映像DVD 3点
寄贈日:2018年 5月28日 寄贈者:田辺 氏 資料内容:新日窒組合員収集資料(借用證書) 1点
寄贈日:2018年 6月21日 寄贈者:石牟礼氏 資料内容:新日窒関連資料(VHS) 2点
寄贈日:2018年12月10日 寄贈者:石井 氏 資料内容:水俣教組関連資料 2点
寄贈日:2018年12月12日 寄贈者:山平 氏 資料内容:百科事典 2点
寄贈日:2019年 1月12日 寄贈者:石田 氏 資料内容:新日窒組合員収集資料 4点
6. 水俣病事件資料集編纂委員会
 水俣病事件資料集続刊の2020年3月の刊行にむけ、水俣病事件資料集編纂委員会を2015年3月に設けた。委員は、統括責任者・編者を花田、資料編纂顧問・編者を高峰武(客員研究員)、資料収集指揮・編者を山本尚友(客員研究員)、編者を東島大(客員研究員・熊本県民テレビ)、井上、石貫謹也(熊本日日新聞社)、隅川俊彦(熊本日日新聞社)、矢野治世美(熊本学園大学)で構成し、アドバイザーとして富樫貞夫(客員研究員・熊本大学名誉教授、水俣病研究会)、有馬澄雄(客員研究員・水俣病研究会)に依頼した。定期的に研究会を実施し、進捗状況を点検しながら資料は、第三会議室に設置し、加えて水俣病研究会資料の複写を進めるとともに、本年度は、各自分担しての資料カードの作成を継続して行った。

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