わたしの研究 60 テーマ  熊本学園大学に赴任して 本研究所研究員 城野  匡(精神医学) これまでの経歴  4月に社会福祉学部に赴任した城野です。熊本市の出身で熊本大学を卒業し、本年の3月まで、熊本大学病院の神経精神科で医師として診療、教育、研究に従事しながら勤務をしていました。大学卒業後から、ほとんどの期間を熊本大学ですごしていたこともあって、勝手がわからないところがまだまだ多いのですが、すこしずつこちらでの勤務になれてきたところです。  前職での研究は、当初は脳の老化、アルツハイマー病における生化学の研究をおこなっていました。具体的には、タンパク質が長年、糖に暴露されることで変性し、その変性したタンパク質が生体内に蓄積することで身体の老化や脳の老化が促進、ひいてはアルツハイマー病の病変への影響をおよぼす、ということについて研究をおこなっていました。大学院の卒業後は、診療においては精神科全般の診療をおこなっていました。当時、増えつつあった、うつ病、高齢者の精神疾患や認知症の診察、などを行い、この数年は、児童思春期の精神・行動面の問題、がん患者の治療初期から終末期までの精神面のサポートとしての緩和ケアの診察、を中心におこなっていました。そして、研究面ではそれぞれの分野における症例の報告や患者さんの診療データをもとにした臨床研究、などをおこなってきました。 精神科の臨床と生活面へ関わること  さて、精神科での診療では、精神症状が一過性のものであることもありますが、長期にわたるものが多く、精神症状のために生活面に支障がでてくる患者さんが多く経験します。ときには、症状と生活面の支障がお互い影響して悪循環をおこすこともあります。医師としては精神症状の把握をすることが優先とはなりますが、精神症状にともなう生活面への影響についても考える必要があります。生活面の維持や改善など生活面のサポートにより、精神症状の悪化を予防する、場合によっては症状を軽減する、ということも診察のなかでは重要な視点となります。そもそも医療は全人的に関わる必要があることはいわれていますが、臨床経験を重ねるにつれて医療としての治療面の関わりだけでなく、より強く生活面への関わりについての関心をもったり、考えたりするようになってきました。  具体的には、児童思春期の診察の場面では、主訴にあたる情緒面や行動面の問題をみるだけでなく、背景にある患者さんの発達や成長の様子、学校や普段の生活の様子、家庭の様子、をよく把握した上で、その背景に応じたそれぞれのペースに合わせて関わりをおこなってきました。また緩和ケアの診察では、がん治療における種々の場面で患者さんが治療の方向性などについて意思決定をおこなう場面が多くあるのですが、それを援助していくために、患者さんの病気についての考え、生活面の背景、家庭の様子、など把握した上で、患者さんの意向にそうような形ですすめてきていました。それに加え、児童思春期の患者であっても緩和ケアに関連する患者であっても、患者さんを支える、あるいはすごしやすくする環境をつくっていくことも大事にしていました。これは診療のなかだけではおこなえない生活面を支えることになるのですが、患者さんを支える部分を増やす、また支えとなるものをうまく利用するための付き合いかたを考える、ときには支える部分となるところへ援助する、といったことを診療のなかで工夫することをおこなってきていました。それぞれの患者さんの周囲の環境として、家族、学校、学校での人間関係、職場、職場での人間関係、病院・施設、病院・施設における人間関係、訪問看護、などがあり、それぞれ患者さんの状況に応じて環境面に対してもアプローチをおこなってきました。  上記のように患者さんの背景を知ったり患者さんの周囲の環境とつきあったりするために、患者さんやその周囲の環境と、関係を築く、関係を維持する、ことを意識していました。その手法として、患者さんやその関係者とうまく対話することに気をつかってきたつもりです。単に話をきくことから、うまく関心をもって話をきくことへ、またお互い話をきくことでこちらや相手の意見や視野が広げられることが対話のなかでできないか、そこから新たな関係につながる視点がみつらないか、と考えて診療をおこなってきました。 これからやってみたいこと  こちらの大学に赴任するにあたっては、上記のような経験から、今後様々な学生と対話をすることがあり、またその経験から対話することについていろいろ考えていくことができればと今のところは考えています。また、対話について考えることを、こちらでの役目の1つである、精神保健福祉士の養成やその卒後教育の場面などにも役立てることができないかと考えています。  まだまだ不慣れではありますが、これからよろしくお願いします。