熊本学園大学付属社会福祉研究所地域貢献モデル事業について 本研究所長 黒木 邦弘(社会福祉学)  2019年度、熊本学園大学付属社会福祉研究所(以下、社福研)では、これまでの研究会事業に加えて、以下の経緯をふまえ、地域貢献を目的とするモデル事業に取り組んでおります。 熊本学園大学付属社会福祉研究所創立50年の歩み  熊本学園大学付属社会福祉研究所(以下、社福研)は2016年に創立50周年を迎えました。守弘仁志(社福研第28代)元所長は、創立50年に際して各周年記念号の研究所史を辿り、5期にわけて総括しています。  第1期(1966〜1974年頃)では、社福研の創設の背景に日本及び熊本における社会問題を科学的に分析すると同時に学問的に貢献する必要性があったとし、社福研の目的は当初より「社会福祉に関する調査研究を行い、地域社会への貢献を目的とする」であったと述べています。  第2期(1974〜1982年頃)では、年間5回の研究会を開催し、内部研究会から一部外部報告者による学外への拡大、また内容の記録化が注目できます。  第3期(1983〜1994年頃)では、「社会福祉の科学的理論を進化させつつ理論と実践の関連を地域社会の場において密にする」方向性が示され、多様な実証研究が行われるようになりました。  第4期(1994年〜2010年頃)では、1994年4月「熊本学園大学」発足により、「熊本短期大学付属社会福祉研究所」から「熊本学園大学付属社会福祉研究所」へと名称を変更しました。また、研究会活動を見直し、外部講師招聘中心から所員による発表の活性化等の方向性が目指されました。また1997年頃から研究所にテレビ受像機、VTR、ビデオカメラを備え、福祉情報番組の収集を可能にするとともに、研究会の録画、インタビュー調査収録など調査研究への応用、ホームページ開設と図書館と共通の図書検索システムを稼動させるなどしました。そして2001年度より調査研究で水俣プロジェクトとして「水俣学関係所蔵資料文献整理ならびにデータベース化」が認められました。  第5期(2010年頃から)では、2008年頃より社会福祉学部卒業生が県内外の施設をはじめ福祉関連で活躍するようになったことから卒業生をまじえた連絡組織「ウェルビーイング研究会」を発足させ、地域型の福祉に関する研究会等に卒業生に一定の貢献をしてもらうようになりました。また、2013年頃からは大学近辺の地域に着目し、周辺の小学校区の住民や福祉・医療関係者と共にシンポジウムを開催するなど卒業生のみならず、地域住民や福祉・医療関係者を交えた研究会に取り組んでいます。  そして2016年には、社福研創立50周年記念講演を開催し、演題「社会福祉研究の現在と未来」のなかで岡本民夫(社福研第8代、同志社大学名誉教授)元所長から、今までの科学的研究法、あるいは実践の科学化、あるいは利用者ニーズの論理化といった戦後の社会福祉研究を一歩すすめる必要性の問いかけがありました。また、岡本氏は、社会福祉のように人間の生活の具体的側面に関わる仕事の場合は、一般の人からの知恵、経験、体験をオープンに取り入れるオープンサイエンスの姿勢が重要と提起されました。さらには実践現場の人たちが鋭意努力をされて、いろんな成果を得ているにもかかわらず、共有できていない課題をあげ、フィールドと理論が情報を共有するツール開発の必要性を、自戒をこめて提起されました。 社福研地域貢献事業の試み  社福研による地域貢献事業の試みは、社福研の歴史、近年の取組み、そして社会福祉研究が未だ解決を見いだせないでいる研究方法論上の課題をふまえています。他方、熊本学園大学社会福祉学部の卒業生の多くが現場の第一線で活躍し、社会福祉士等の資格を持ってソーシャルワーク等の実践を積み上げています。社福研は、実践の知とでもいうべき実践事例に今一度、光を当て熊本・九州を中心に優れたソーシャルワーク実践事例の集積の検討をはじめたいと考えます。具体的には、以下の通りです。 1)社会福祉系有資格者の職能3団体との連携  社会福祉系有資格者の職能3団体(熊本県社会福祉士会、熊本県医療ソーシャルワーカー協会、熊本県精神保健福祉士協会)は、2018年のソーシャルワーカーデー(2009年創設、「海の日」に開催)をはじめ、3団体合同で事業に取り組んでいます。  また、2019年には、熊本県社会福祉士会(10月)と熊本県医療ソーシャルワーカー協会(11月)の両団体が、熊本市にて九州・沖縄ブロック大会を開催することになりました。社福研では、これを好機ととらえ、3団体と連携を模索する事業を実施することで地域貢献の一歩をすすめたいと考えています。 2)地域貢献事業  2019年度社福研の研究会事業を4回開催し、うち2回を地域貢献事業に位置づけてすすめています。 (1)職能3団体と連携した地域貢献事業      2019年度地域貢献事業?    岡本民夫元所長のご指摘をふまえ、地域貢献事業?ではソーシャルワーク研究の研究方法論に知見を有する外部講師を招き、基調講演をいただきました(第一部)。引き続き、先の3団体関係者及び社福研所員と共に、今後の研究機関と実践機関との連携の方向性について意見交換を行いました(第二部)。 ・2019年7月20日土曜日 ・講演 平塚良子先生(大分大学名誉教授)  演題「ソーシャルワークの研究      知識構築の歴史的動向に学ぶ 」 ・意見交換 3団体の代表と所長・黒木、平塚先生を交えて研究機関と職能団体の連携の意義について意見交換をおこなう。  ※同研究会は、3団体と共にソーシャルワーカーデーの一環として実施。 (2)日本学術会議社会福祉学分科会提言をふまえた地域貢献事業     2019年度地域貢献事業?   地域貢献事業?では、日本学術会議社会学委員会社会福祉学分科会(2018年9月13日)提言「社会的つながりが弱い人への支援のあり方について 社会福祉学の視点から 」をふまえた事業を企画しました(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t268.pdf)。同会議では、「社会的つながりを再構築するための方法」として、1)ソーシャルサポートネットワークの構築、2)福祉教育(福祉意識の啓発、理解、参加)の促進、3)地域福祉計画の策定の3点をあげています。そこで、地域貢献事業?では、同提言のなかで、福祉教育を土台に地域福祉が推進されていることに着目しました。地域と学校が連携して本格的なサービスラーニングを展開している宮崎県の社会福祉法人日向市社会福祉協議会が先駆な事例とされていることから、実践事例を講演いただきました。 ・2019年12月7日?土曜日 ・講演 成合進也氏(宮崎県日向市社会福祉協議会 地域福祉課 課長)  演題「地域+学校+福祉教育=未来の地域人の育成〜地域貢献学習を取り入れた福祉教育プログラムの実践」  以上のように、今年度の社福研の地域貢献事業は、社会福祉学およびソーシャルワーク実践理論に関する学術的な観点を取り入れ、他方でソーシャルワークに関する実践的な観点を取り入れてすすめてまいりました。今後は、こうした知見を講演者等の了解がえられれば、映像として記録・編集し、所員をはじめ卒業生や3団体の会員と事例研究を深めるコンテンツとして活用することを検討したいとおもいます。 運営委員 守弘仁志先生を偲んで  地域社会への貢献を目的とする本研究所50年の歴史に多大な貢献をされたのが守弘仁志運営委員です。守弘仁志先生は、2019年に急逝されました。  守弘仁志先生は、運営委員8期16年間、所長4期9年間、社福研50年の歴史のうち25年間もの長きわたり社福研の運営に尽力いただきました。   運営委員歴 16年間 所長歴 9年間 1994−1995,1996−1997, 1998−1999,2000−2001, 2004−2005,2006−2007, 2008−2009,2017−2018 第24代(2010−2011) 第25代(2012−2014) 第27代(2015−2016) 第28代(2016−2017)  冒頭で紹介した創立50周年事業では、社福研の歴史を5期に分けて整理されました。守弘先生にしかできないお仕事だと思います。また、専門の社会情報学の知見をいかし、新聞やテレビ番組の分析に関心をお持ちになり、社福研事業の可視化や資料の収集に貢献いただきました。地域貢献事業をすすめることの意義や事業の記録についてもよく承知されていました。ここに先生のご功績を称え、お別れをしたいと存じます。 平塚先生の講演 三団体との意見交換 成合氏