福祉見てある記58 熊本県社会福祉協議会「地域福祉権利擁護センター」訪問記 1、はじめに  熊本県社会福祉協議会「地域福祉権利擁護センター」は、熊本市中央区にあり、1999(平成11)年10月の制度化とともに地域福祉権利擁護事業を開始され、現在では、事業を委託している熊本県内の市町村社会福祉協議会の後方支援・監督やPR活動等を行われています。事業名については、2007(平成19)年に日常生活自立支援事業と名称変更されましたが、熊本県では利用者等の混乱を避ける意味で名称変更せず、継続して使用されています。私は、その事業の契約締結審査会の委員を務めていますが、今回、事業開始20年の節目に当たる2019(令和1)年10月に訪問し、福山真由美所長より具体的なお話を伺うことができました。 2、事業の運営  事業目的としては、判断能力が不十分な方々との契約に基づいて、日常生活を営むうえで必要とされる福祉サービスの利用や金銭管理等について、情報提供、助言、手続きの援助等を行うことにより、本人の自己決定のもとに日常生活を支援するものです。職員は、所長1名、主事1名、相談員1名の3名体制で運営されています。  事業の方針として、本人に特別なこだわりや拒否がある場合、本人の思いを直ちに否定するのではなく、時間をかけて信頼関係を構築することにより、本人にとって最適な日常生活の形成に努められています。特に、本人に寄り添いながら、自己決定を最大限に尊重した支援を心がけておられ、意思決定支援を重視されていることが伺えました。 3、事業の現状  少子・高齢化や核家族化の進行、地域とのつながりの希薄化などにより、家庭や地域社会の機能は大きく変化しています。そして、認知症高齢者や地域生活に移行する障害者の方々が増加している中、利用者数も増加傾向にあります。  福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理、書類等の預かり、日常生活に必要な事務に関する手続きなどの支援を行っている利用者数は、2019(令和1)年9月末現在、県内で941名(熊本市145名、熊本市以外の44市町村796名)となっています。  また、事業に関する相談件数は、2018(平成30)年度で、53,789件(熊本市12,965件、熊本市以外の44市町村40,824件)と大変多くなっています。  近年の特徴としては、精神障害者の利用者数の増加が著しく、それに伴い、相談件数も増加しています。そして、最近では、生活困窮者自立相談支援事業や熊本地震被災者支援の過程で事業の相談につながることも多いとのことです。様々な生活課題を複数抱える方々が多くなり、自立を支える大変重要な事業と実感されていました。 4、事業の課題  利用者数の増加の一方で、判断能力の低下が著しい方や契約による援助が困難な方等、成年後見制度への移行が必要な方も増加傾向にあります。継続的な支援体制の構築を図るため、市町村社会福祉協議会による法人後見の取り組みが求められており、2019(令和1)年9月末現在、県内の13市町村で実施されています。しかしながら、困難ケースの増加で支援に時間や回数を要すことも多く、財政面の限界も相まって、体制整備が進まず、実施が難しい市町村もあるようです。  また、そもそも判断能力が不十分な方々が対象で、ケースの複雑化もあり、事業の契約を締結する能力等に疑義が生じる方も増加傾向にあります。契約内容及び本人の判断能力との関係をふまえ、契約の適否等については、契約締結審査会にて協議されています。今後、契約締結能力や事業の有効性に関する審査及び他制度への適切なつなぎ等の協議も予測され、契約締結審査会の重要性も増していくと考えられます。 5、職員の喜び  事業の利用者は、公共料金や病院代の滞納や借金等の問題を抱えている方々が多くなっている現状です。事業を利用し、支援を受けることによって、返済を終えることができ、さらに預貯金までもできるようになり、生活に張りが出てこられた利用者もおられるとのことでした。やはり利用者の笑顔や変化にやりがいや喜びを感じておられるようで、その話される表情がとても印象的でした。 6、おわりに  現在、認知症高齢者等が増加する中、権利擁護分野では、判断能力に応じた意思決定支援が求められています。熊本県社会福祉協議会「地域福祉権利擁護センター」を中心に、市町村社会福祉協議会が一体となって、日々現場できめ細やかな支援がなされており、意思決定支援についても、丁寧な取り組み姿勢が感じられました。  最後に、今回、訪問・取材時が、地域福祉権利擁護事業の開始20年と重なり、事業の現状や課題等について、一緒に考える機会にもなり、職員の方々に感謝申し上げます。