〈一冊の本〉 『平成家族 ――理想と現実の狭間で揺れる人たち』 朝日新聞取材班 著 朝日新聞出版 2019年 1,400円(税別) 本研究所研究員 杉本  学(社会学)  元号が変わるのを機に、「平成」という時代を振り返る出版が、昨年から今年にかけて相次いだ。その中で、家族にスポットを当て、「昭和の価値観と平成の生き方のギャップ」を伝えようと試みた一冊が、この『平成家族』である。  朝日新聞の生活面で2018年に掲載された「家族って」という連載シリーズの記事を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再構成して書籍化したものである。また、この企画はwithnews(朝日新聞社が運営するニュースサイト)とヤフーニュースとも連携することで、一般読者との双方向コミュニケーションも試みている。  本書では、本人に代わって親が結婚相手を探す「代理婚活」や、単身無職のきょうだいの世話を背負わされる「きょうだいリスク」の事例、不妊治療を断念した後も周囲から「まだ大丈夫よ」とけしかけられるのが苦痛だという女性、家事・育児に参画するために育休をとったり仕事を制限したりすることに職場の理解が得られない男性会社員など、全部で59にわたるケースを紹介している。限られた紙面に多数のケースが盛り込まれているので、その一つ一つについては必ずしも詳しく紹介されていないが、それぞれ困難や葛藤、不安、そしてそれらを乗り越えようと試行錯誤する姿が描かれている。  また、各種の統計データや専門家のコメントなども適宜添えられており、全体的な動向を俯瞰的に捉えることも欠かしていない。エッセイストの酒井順子や映画監督の山田洋次、脚本家の橋田寿賀子といった著名人のインタビューも掲載され、さらに取材した記者たちも、コラムや取材後記で思いを語っている。このようにさまざまな「声」が折り重なるようにして、本書の全体を構成している。  昨今の日本社会では、「女性活躍」や「イクメン」が推奨される一方で、依然として「男は仕事、女は家庭」という性別分業や、それを前提とした働き方が根強い。そうした矛盾が、多様な事情を抱えた個々人の生活にのし掛かってくる。個々の生活者は「昭和の価値観」に、職場や実家といった外部からだけでなく、しばしば自己の内からも縛られる。たとえば、家族の食事に簡単調理食品を利用するのを「手抜き」と感じ、罪悪感を覚える既婚女性が少なくないということや、家事・育児と両立できる働き方を選んだ男性が、バリバリ働いて評価される同僚にどこか引け目を感じていることなどに、それが表れている。本書を読みながら、私自身も多かれ少なかれそうした「昭和の価値観」を引きずっていることに思い当り、きまりの悪い思いに駆られたりもした。